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マンホールをプラ板にしたら5歳の娘が大喜びで駆け出した

5歳になる娘がお泊りにハマっている。おい、そんなことしなくてもお前の日常自体おもしろいじゃないか。たとえばおまえがいつも通ってる道をプラ板工作にしたらほら、すごいよこれ。


もう親離れがきたか

5歳になる娘が友達の家に泊まりにいった。なかなか帰ってこないなと思ったら4泊5日だった。なんだそれは。久しぶりに会った朝には「お父さーん!」の歓声もなし。温度ゼロ。

早くも来たか。娘が父をすてるのはこんなに早く来るのか。お父さんはショックです。ついつい保育士への連絡ノートはいつもの二倍書いた。他人の家に泊まっててなにも書くことないはずなのに……

プラ板プラ板で絵をなぞって焼くプラ板工作。ちぢまっていいオブジェになる

プラ板工作でおまえの日常をたのしくしてやろう

そりゃ他人の家に泊まるのは非日常でたのしい。だけどそれなら今の日常をおもしろくして対抗してやろう。

たとえば娘はよくプラ板工作をやっている。プラ板で絵を写しとってオーブントースターでキュキュっと縮こまらせるやつだ。ふだんの彼女はキティちゃんとかディズニープリンセスとかをトレースしている。たのしい絵でたのしいものができる。

あれだ。あれで日常を写しとってくるのはどうか。日常を写しとる? なんだろう、たとえばいつも通ってる道だ。

プラ板ふだん通ってる道を写しとってくるのはどうか……しかし、たのしいかなこれ

プラ板おお、意外と写しとれるものだな

おれは今なにをしているんだろう

マンホールのふたにプラ板をおいて上から油性マーカーでなぞる。

「東…京…下…水…道、と」

この日の東京の最高気温は34℃。午後3時。道路はガンガンに熱せられてマンホールは熱くてさわれたものではない。軍手をもってくればよかった。

娘になにかものを作ってやるのはだいたい娘が保育園でいない時間であり、おもに平日の日中である。そう、みんなが働いている時間だ。

自販機にコーラをガッチャンガッチャン入れていく業者の汗がまぶしい。顔見知りの宅配便屋がいて思わず顔をふせる。おれは今なにをしているんだろう。

プラ板東京34℃、路上はめちゃめちゃに暑い、マンホールは熱くてさわれたものじゃない

プラ板電話ボックスの「ひく」とかな、持っておいて損はないよな

プラ板ああ、これはいいものだよ、消防のね、なにかだよ

プラ板これのキーホルダーとかもってる子供はシブいよ

プラ板「いいサンプリングですねー」ふが? どうやら芸術と思われたようだ

続・おれは今なにをしているんだろう

東京の人は冷たいんだそうだ。だがこれはぼくら平日の昼間から娘にへんなものを作ってやる側の人間にとっては好都合だ。街でなにか変なことをしても声をかけられる確率がへる。

しかしそれでもかけてくる場合がある。さっぱりわけがわからないことならまだいい。中途半端にわかるものの場合、声がかかるのだ。

この場合はまさに危険水域。(……この人、プラ板工作をしてるんだ! でも一体なんで街の標識なんかを?)そんな人が寄ってきませんように寄ってきませんようにと念じながらなぞる。

「いいサンプリングですね!」

いったいなんのことかわからなかったが声をかけられた。サンプリング……ああ、収集? 街を写しとる芸術活動と思われてるんだ。

「ふだん何やってる方なんですか? 今度見かけたらまた声かけますよ」

おれはもう街であんまりこんなことをしたくない。娘よ、もう他人の家に泊まりに行くな。おれは芸術でもなんでもないんだ、ただの父親なんだ。

プラ板これは大人もちょっとほしくなるよ、バルブ。いいものだなあ

「見たことある! ところで余りのプラ板ないの?」

保育園から帰ってきた娘に、街で写しとったプラ板を見せる。

「それなあに? あっ、知ってる! 見たことあるもん」

なんとなく街にあるものだということはわかるようだが、そのあとすぐにプラ板もってるならわたしにもプラ板やらせろといってディズニーキャラを模写しはじめた。

ああ、さすがに5歳児が「バルブ」とか「東京下水道」とか見ても「キャーッ!」とはならないか。いや、まだまだ話はこれからだ。プラ板はな、ちぢむんだよ!

プラ板だからなんだと言われましても、ほら、マンホールのふたがオーブントースターでちぢまるんですよ!

プラ板できた、ちっちゃくてかわいいマンホールのふた!! ほらいいじゃんこれ、5歳はどうかわかんないけど、ちょっとおしゃれ小物にも飽きてきて文化かユーモアほしいな〜くらいに思ってる雑貨ファンをターゲットにしたら売れるよ(自信ないけど)

プラ板買うな、おれ500円なら買う。だってもとが本物だからな。魚拓みたいなもんだよ

マンホールのふたがかわいい!

オーブントースターの熱でキューっと小さくなるマンホールのふた。か、かわいいじゃないか……プラ板工作のいいところは小さくなったときにみょうにうまくできてる感じが出るのだ。マンホールのふたも消火栓のマークも全部まとめて金具をつけたら、ほら、いい感じのキーホルダーだ!

「ねえ、リュックにつけてったら怒られるからとってくんない?」

おまえがつけてるのはそれ、いつもの道なんだぞ! 道をだな、おまえ今かばんにつけてるんだぞ、こんなことってあるか? ……いや、あんのかな。そんなことになったことおれもないからな。とにかく5歳児にはこのよさがイマイチ伝わっておらず。保育園についたらキーホルダーとるから、となだめた。

プラ板遠足だという娘のリュックに。いいからいいから、つけておきなさい

娘、食いついた

しかしここから風向きがかわる。

「今からおれたちは保育園に行く。そのキーホルダーについてるものが、全部その道にある。見つかったら言え」

そう言った瞬間に、娘は獲物を見つけたビーグル犬のように駆け出した……! すごい、そのゲームなんも出んぞ! いいか、わかってるのか!?

プラ板「これからお前の通る道にそのキーホルダーはあるから、探してごらんよ」理解すると走りだした(娘、取材でもらったはてなのTシャツ着てるな)

プラ板「あったー! わー、すごいねー!」と。すごいというのは平日の昼間に炎天下マンホールをはいつくばったことに対して言ってるのかな

プラ板次は電話ボックスにあるよというと「電話ボックスって何!?」くそ、そういう時代め!

プラ板「あった! あった!」電話ボックスの"ひく"で喜んでるの世界中で今おまえだけだよ

プラ板「やった、あったー! あったー! これなあに!?」おれも知らん、たぶんありがたいものだよ

プラ板「英語が書いてるねー!」そうだ、中国語も韓国語もある。勉強になるからな、一生持っておいたほうがいいよそれは

プラ板「自転車もあったー!」そうだ、だが本物の自転車はここにはないんだ、持ってっちゃうからね。あとそれいいサンプリングらしいよ

プラ板「最後わかんない! 最後わかんない!」ヒントは地面にある水色だよ。それにしてもよくそこまで熱中できるな

プラ板「あったー!!」……バルブ。これだけ脚光をあびた今日はこのバルブの一生のハイライトとなることだろう

お前は今、バルブでよろこんでいるな

あっという間だった。5歳児の熱中というのは突風のようだ。見つかった見つかったと喜んではまた次のキーホルダーをさがしていた。最後は難関、水色の「バルブ」のふた。自販機の裏側にあるそれを見つけた娘は大喜びした。

お前は今、バルブで喜んでいるんだな……

そう思うと胸の奥でキュッとプラ板がちぢこまるような気がした。不憫……いや、ふびんなのかこれは、もうわけがわからない事態だよこれは。

これから娘は何度も日常に飽きることだろうし、そのたびにおれはプラ板片手に日常をぬりかえていかなくてはならない。だってそうしないとお前はまた4泊5日の旅に出てしまうだろう。芸術家にまちがわれながら、世の中のお父さんたちはなんとか娘の気を引こうと必死なんである。

プラ板そういういつもの道をお前は身につけてるんだ、そしてそれがどういうことなのかは……お父さんもわからないよ


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大北栄人 ohkita shigeto

デイリーポータルZなどで書いてるライターです。娘にダンボール製のリカちゃんを作ったり、いちご大福のピリピリ原因やコーラが何味なのかを調べたりして話題に。

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